更新日:
2025/5/30

働き方改革は、少子高齢化や労働力不足などを解決し、人々が多様で柔軟に働ける世の中を目指しています。それを実現するには、企業の努力が必要不可欠です。本記事では、働き方改革の背景や目的、11の見直し内容について詳しく解説します。中小企業の成功事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

働き方改革とは、労働者一人ひとりが自分のライフスタイルや事情に応じて、多様で柔軟な働き方を選択できる社会を目指す取り組みです。個々のニーズに合った働き方ができるようになることで、労働環境の質を向上させるとともに、ワークライフバランスの実現にもつながります。
特に、日本の雇用の約7割を支える中小企業・小規模事業者においては、働き方改革を着実に実施することが求められています。人手不足が深刻な中、働きやすい環境を整えることで人材不足の解消にもつながります。
働き方改革は、2018年6月に「働き方改革関連法」として成立し、2019年4月より順次施行されています。単なる一時的な政策ではなく、日本の未来を支えるための長期的な取り組みであり、個人と社会の双方にとってより良い環境を目指すものです。

日本では、少子高齢化による労働力不足や、多様化する働き方のニーズに対応するため、働き方改革が求められています。ここでは、働き方改革が始まった背景について詳しく説明します。
日本の生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は1995年の8,726万人をピークに、想定以上のペースで減少し続けています。最も現実的な予測である『出生中位推計』によると、2029年には7,000万人、2040年には6,000万人、2056年には5,000 万人を下回り、2065年には 4,529 万人にまで減少すると見込まれています。こうした日本の労働力不足を解消するには、働き方改革の推進が不可欠です。
現代では、働く人々のライフスタイルが多様化する中で、柔軟な働き方へのニーズが高まっています。従来の長時間労働や固定的な勤務形態では、育児や介護を担う人にとって働き続けることが難しいという問題がありました。
こうした課題に対応するため、時短勤務やリモートワーク、フレックスタイム制の導入、副業・兼業の許可など、多様な働き方の推進が求められています。特にリモートワークの普及は、働く人が場所に縛られずに働けるだけでなく、企業にとってもオフィスコストや通勤手当の削減、優秀な人材の確保など、多くのメリットをもたらします。
働き方改革の目的は、日本が目指す「一億総活躍社会」を実現することです。一億総活躍社会とは、50年後も人口1億人を維持することと、すべての人が職場・家庭・地域で活躍できる社会のことを指します。
厚生労働省の資料では、以下のように説明されています。
一億総活躍社会とは、
少子高齢化という日本の構造的な問題について、正面から取り組むことで歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持
一人ひとりの日本人、誰もが、家庭で、職場で、地域で、生きがいを持って、充実した生活を送ることができること
この目標が実現すれば、すべての人が自身のライフステージに応じた働き方を選択できるようになります。例えば、リモートワークや時短勤務、非正規雇用の待遇改善などにより、子育てや介護を担う人、高齢者や女性も無理なく働き続けることが可能です。
さらに、働き方改革が進むことで、企業の生産性向上や人材確保が促進され、経済全体が活性化します。最終的には、日本全体の成長と安定を支える基盤が整い、持続可能な社会の実現が期待されるのです。このように、働き方改革は単なる労働環境の改善だけではなく、日本の未来を支える重要な施策なのです。

日本における深刻な労働力不足を解消するには、未来の働き手を増やすとともに、多様な人材の活用、生産性の向上など、さまざまな見直しを進めることが必要です。ここでは、労働力不足解消に向けた具体的な取り組みを解説します。
労働力不足の解消には、出生率を上げて未来の働き手を増やすことが最重要課題です。特に若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、出産率低下の流れを食い止めるための重要な分岐点といわれています。
この課題に対応するために政府や企業が取り組むべきことは、仕事と子育てを両立しやすい環境を整えることです。具体的な施策として、育児休暇の拡充、フレックスタイム制の導入、リモートワークの推進、託児所の設置などが挙げられます。こうした取り組みにより、育児と仕事の両立がしやすくなれば、出産に対する不安や負担が軽減され、結果として出生率の向上につながることが期待できます。
労働力不足の解決策として、女性や高齢者が活躍できる環境を整えることはとても重要です。現在、多くの女性は育児や家事の負担により、フルタイムで働くことが難しい状況にあります。内閣府の資料によると、令和3年(2021年)の女性の非労働力人口は2,636万人にのぼり、そのうち171万人が就業を希望しながらも求職していません。求職しない理由として最も多かったのは「適当な仕事がありそうにない」という回答であることから、多様な働き方が普及すれば、より多くの女性が労働市場に参加する可能性が高いと考えられます。
一方で、高齢者の就労意欲も高まっており、健康で働く意欲のあるシニア層が増えています。長年の経験や専門スキルを持つ高齢者は、企業にとって貴重な戦力であり、定年の延長や再雇用制度の充実が進められています。
日本の労働生産性は、OECD加盟国の中でも低い水準にあり、先進7カ国の中では最下位となっています。人口減少が進む中で国全体の生産力を維持するためには、一人ひとりの労働生産性を向上させることが不可欠です。
生産性を上げるには、限られた時間の中でより高い成果を上げることが求められます。そのためには、業務のムダを省くための業務分析やプロセス改善、IT・AIの活用による業務の効率化が効果的です。生産性の向上によって長時間労働に頼らずとも高い成果を出せるようになれば、持続可能な経済成長につなげることができます。
働き方改革関連法の施行により、労働環境の改善を目的としたさまざまな法改正が行われました。主な変更点となる11項目について、わかりやすく解説します。
働き方改革の一環として、時間外労働の上限が法的に規制されました。従来は、36協定(労使協定)を締結することで、企業は労働者に長時間の残業をさせることが可能でしたが、改正により厳格な上限が設定されています。
原則として、時間外労働は「月45時間・年360時間」が上限となります。これを超える場合は、臨時的な特別の事情があり、労使協定(特別条項)を結んだ場合に限られますが、それでも「年720時間」「月100時間未満(休日労働含む)」「複数月平均80時間以内」などの制約を満たす必要があります。さらに、原則である「月45時間超」が認められるのは年6か月までです。
勤務間インターバル制度とは、勤務終了後から次の勤務開始までに一定以上の休息時間を確保する制度のことです。これを企業の努力義務とすることで、従業員が十分な睡眠やプライベートの時間を確保できるようにすることが目的です。
具体的なインターバルの目安として、厚生労働省では9~11時間を推奨しています。例えば11時間の勤務間インターバル制度を導入した企業では、23時に退勤した場合、翌日の勤務開始は少なくとも10時以降になります。
インターバルを確保する方法としては、「始業時間を遅らせる」「重複部分を働いたものとみなす」などが考えられます。または、一定時刻以降の残業を制限することでインターバルを確保することも可能です。
2019年4月より、企業は年間10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、年間5日以上取得させることが義務付けられました。これは、労働者が自発的に取得するのを待つのではなく、企業側が積極的に取得を促す必要があるという制度です。取得しない労働者に対しては、企業側から希望時季について聴取し、取得させる義務があります。これを怠った場合は、労働基準法第120条により、労働者1人につき30万円以下の罰金などが企業に科される可能性があるため注意が必要です。
また、年5回の年次有休の取得はあくまでも目安のため、労働者がより多くの有休を取得できるよう努めることも大切です。
これまで月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率は、大企業50%、中小企業25%の適用でした。しかし、2023年4月より中小企業も大企業と同様に50%の割増賃金率に引き上げられました。この制度の導入により、企業は過度な残業を抑制し、労働者の健康維持を図ることが求められています。割増賃金率の引き上げは、企業にとって人件費の増加につながるため、業務効率の改善がより一層重要になります。
2019年4月の法改正により、企業には労働者の労働時間を客観的な方法で記録し、管理することが義務化されました。従来は自己申告制による管理が多く、実際の労働時間と乖離しているケースも見られましたが、改定後はタイムカードやPCのログイン・ログオフ時間の記録などを活用し、正確に把握する必要があります。この義務は、一般の労働者だけでなく、裁量労働制が適用される社員や管理職にも適用されます。これにより、企業はすべての従業員の健康管理をより厳格に行うことが求められ、長時間労働の抑制や過労防止が期待されます。
「フレックスタイム制」とは、一定の期間内で総労働時間を定め、その範囲内で始業・終業時間を労働者が自由に決められる制度です。従来、フレックスタイム制の労働時間の清算期間は1か月以内とされていましたが、2019年4月の法改正により最大3か月まで延長可能となりました。この改正により「繁忙期には多めに働き、業務が落ち着いた時期にまとまった休暇を取る」といった柔軟な働き方が可能になります。一方、企業側は長期間にわたる労働時間の調整が必要になるため、労働時間の清算方法や管理体制を整えることが重要です。
2019年4月の法改正により、高度な専門知識を持ち、一定の年収要件を満たす労働者を対象に「高度プロフェッショナル制度」が創設されました。この制度の対象者は、年収1,075万円以上で、アナリスト、金融商品の開発、研究開発、公認会計士や弁護士などの専門職に従事する労働者です(医師など一部職種を除く)。制度の適用には、企業内の労使委員会の決議と、本人の同意が必須です。
この制度により、労働時間規制や割増賃金の適用が除外され、高い収入を確保しながらメリハリのある働き方が可能になります。その一方で、長時間労働のリスクもあるため、企業は労働者の健康管理を徹底し、適切な労働環境を維持することが求められます。
2019年4月の法改正により、「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者への面接指導」が強化されました。具体的には、労働者の長時間労働やメンタルヘルス不調による健康リスクを見逃さないよう、産業医による面接指導や健康相談の徹底が義務化されています。また、産業医の独立性・中立性を強化し、専門的な立場からより効果的な支援を行いやすい環境が整えられました。さらに、面接指導の基準が「月100時間超」から「月80時間超かつ疲労の蓄積が認められる者」へ拡大され、健康被害の早期発見が期待されています。
正社員と非正規社員(パート・有期雇用・派遣労働者)間の不合理な待遇差が禁止され、「同一労働同一賃金」の原則が適用されました。これにより、正当な理由のない給与・手当・福利厚生の格差は認められなくなりました。例えば通勤手当の場合、同じ支給条件を満たしているのであれば、正社員・非正規社員ともに同一に支給される必要があります。一方、管理職手当のように業務内容に明確な違いがあり、正当な理由を説明できる場合は、待遇差が認められることもあります。
企業の非正規雇用労働者(パート・有期雇用・派遣労働者)に対する待遇についての説明義務が強化されました。従来はパート・派遣労働者のみが対象だった『本人の待遇内容』や『待遇決定の考慮事項』の説明義務が、有期雇用労働者にも適用されました。さらに、今回の改正により、非正規雇用労働者は『正社員との待遇差の内容や理由』についても説明を受けることが可能になりました。
働き方改革では、非正規雇用労働者の待遇改善が重要な柱となっています。その一環として、行政による履行確保措置(報告徴収・助言・指導等)や、裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定が整備され、非正規雇用労働者の権利保護が強化されました。
これまで行政の履行確保措置はパート・派遣労働者のみが対象でしたが、法改正により有期雇用労働者も行政の指導・助言の対象となりました。これにより、待遇や労働環境に問題がある場合、行政が企業に改善を求めることができるようになっています。
また、裁判をせずに行政が仲介して解決を図る裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定も整備され、有期雇用労働者や派遣労働者も利用できるようになりました。この制度を利用すれば、事業主と何かトラブルがあった際に、裁判をせず行政を通じて解決できる可能性があります。

近年、多くの中小企業が働き方改革に取り組み、従業員の働きやすさと企業の成長を両立させる工夫を進めています。ここでは、長時間労働の是正、テレワークの推進、柔軟な勤務制度の導入など、実際に成果を上げた3社の事例を紹介します。
中外電工株式会社は、鹿児島県鹿児島市に本社を置き、電気設備工事や空調管工事を手掛ける企業です。同社では、『長時間労働の是正』と『業務効率化』を目指し、働き方改革に取り組みました。具体的には、20時以降の残業や休日出勤を行う場合は事前に社長への申請を義務付け、未申請の場合はパソコンを強制的にシャットダウンする制度を2024年4月より導入しました。また、業務のペーパーレス化の推進や、使用するソフトウェアを統一することで、システム上での情報の処理と共有を可能にしました。これらの施策により、社員一人ひとりが効率的な働き方を意識するようになり、プライベートの時間も確保されるなど、働き方改革の好循環が生まれています。
引用:厚生労働省_働き方改革特設サイト_ 中小企業の取り組み事例(中外電工株式会社)
株式会社菊正塗装店は、茨城県水戸市に本社を構える塗装工事業者で、創業は1910(明治43)年にさかのぼります。専務取締役の鈴木大介氏の入社後から業務効率化やペーパーレス化を進めてきましたが、出社を前提とした働き方が根強く、改革は難航していました。転機となったのは新型コロナウイルスの影響です。これを機に、全社員にノートパソコンとスマートフォンを支給。スマートフォンのテザリングとVPN接続を活用し、どこからでも安全に社内システムへアクセスできる環境を整備するとともに、セキュリティ対策も講じました。さらに、タイムカード打刻やスケジュール管理のデジタル化、リモート会議の導入により、事務職だけでなく現場管理担当者も出社せずに業務を遂行できる体制を実現。その結果、全社員がテレワークを実現できるようになり、より柔軟な働き方が可能な職場環境が整いました。
引用:厚生労働省_働き方改革特設サイト_ 中小企業の取り組み事例(株式会社菊正塗装店)
株式会社由利は、1971年に設立された兵庫県豊岡市の鞄メーカーで、従業員の約7割が女性です。 同社では、社員がゆとりをもって働ける環境を目指し、年次有給休暇の消化率向上や残業削減に取り組んできました。 さらに、2019年度からは、最短3時間から勤務可能な「プチ勤務制度」を導入。この制度は、子育て中の若い主婦層を主な対象としており、検品や糸処理などの業務からスタートし、意欲次第で縫製技術の習得も可能としています。これにより、子育て中の女性が働きやすい環境を整備し、入社希望者の増加や社員のモチベーション向上につなげています。
引用:厚生労働省_働き方改革特設サイト_ 中小企業の取り組み事例(株式会社由利)
働き方改革は、少子高齢化や労働力不足といった社会課題を解決するため、すべての人が柔軟に働ける環境を整えるための重要な取り組みです。本記事では、働き方改革の背景や目的、11の見直し内容、中小企業の成功事例を紹介しました。企業が積極的に改革を進めることで、従業員が働きやすくなるだけでなく、企業にとっても生産性向上や人材確保などのメリットにつながります。働き方の多様化が求められる今、自社に合った改革を進めて持続可能な労働環境を実現していきましょう。
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