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それは"損失"か、"価値を生む費用"か──総務の仕事をLossとExpenseで考え直す

更新日:

2026/9/4

これまで多くの総務・バックオフィス部門の皆様とお話をしてきました。その中で繰り返し感じてきたのは、多くの方が自部門を「コストセンター」だと自認し、業務の改善を考えるとき、意識が自然と「いかにコストを削るか」だけに向かってしまっているということです。

これは決して怠慢でも視野の狭さでもありません。経理上、総務は売上を直接生み出さない部門として管理され、評価指標もコスト効率に偏りがちです。その構造の中にいれば、コスト以外の視点を持ちにくくなるのは当然のことだと思います。

しかし、その視点だけで業務を見続けていると、大きな見落としが起きます。

目次

LossとExpense──会計から借りる、もう一つのものさし

経営学者ピーター・ドラッカーは、1963年にハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した論文「Managing for Business Effectiveness」の中で、次のように述べています。

There is surely nothing quite so useless as doing with great efficiency what should not be done at all. (そもそも行う必要のないことを、効率よく行うことほど無駄なことはない)

これは「Doing things right(正しく行うこと=効率)」と「Doing the right things(正しいことを行うこと=有効性)」を区別せよ、というドラッカーの有名な指摘の核心部分です。

この考え方を、会計の言葉を借りて整理してみます。会計上、支出には大きく分けて二種類あります。一つは、売上や成果という見返りを生み出すために使われる Expense(費用)。もう一つは、何の見返りもなく発生してしまう Loss(損失) です。同じ「お金や時間が出ていく」という現象でも、その裏に価値の見返りがあるかどうかで、まったく別のものとして扱われます。

業務についても、同じことが言えるはずです。もしある業務について「コストをどう下げるか」しか語ることがないのだとしたら、それはその業務が生んでいる見返り=価値を、誰も言語化できていないということかもしれません。つまりその業務は、Expenseとしてではなく、Lossとして扱われてしまっている可能性があります。そして本当にLossでしかないのであれば、ドラッカーの指摘の通り、効率化するのではなく、やめるという選択肢を検討する必要があります。

本当に見極めるべきは、「このコストをどう下げるか」ではなく、「これはLossなのか、それとも価値を生むExpenseなのか」という視点なのだと思います。

経営者になって気づいた、「数字」と「環境」の価値

私自身、公認会計士としてのバックグラウンドを持っています。かつては、売上を生み出す営業こそが会社にとって価値のある仕事であり、コストしか生まない経理は営業に比べて一段劣る仕事だと考えていた時期がありました。経理の仕事を、どこかLossに近いものとして見ていたのだと思います。

しかし、実際に会社を経営する立場になってみると、まったく違う実感を持つようになりました。社内の数字を誰よりも早く、正確に把握できることは、時には営業活動そのものよりも高い価値を持つ、ということです。売上の数字が落ち込んだとき、その原因が何で、どこを改善すれば数字が戻るのかを早いタイミングでつかめれば、営業活動そのものを改善し、結果として売上を引き上げることができます。数字を早く正しくつかむ経理の仕事は、Lossどころか、営業を後押しする最も強力なExpenseの一つなのです。

会社というのは、どの部署が偉い、どの業務の価値が高い、といった単純な理屈で運営されているわけではありません。営業と経理が互いに支え合って初めて、売上という結果につながっていく。複数の部署がお互いを支えあって、売上や利益という結果が生まれます。経営者になって、そのことを強く実感するようになりました。

総務についても、同じような気づきがありました。会社を立ち上げてすぐに実感したのは、社員が働く環境を整えることの重要性です。整えられたオフィスには、自然と人が集まってきます。創業したばかりの頃、オフィスの清掃やトイレ掃除は、社長である私自身の仕事でした。社員には、働く場所を選ぶ権利があります。職場の環境が整っていなければ、社員は静かに離れていきます。それは、本来防ぐことができたはずの退職という、取り返しのつかないLossです。そのうえ、辞めた社員の穴を埋めるために新しく人を採用するコストは、環境を整えるコストよりもずっと高くつきます。環境への投資を惜しむことは、目先の節約に見えて、防げたはずのLossを引き起こし、結果としてより大きなExpenseを払う羽目になるのです。

これは決して小さな会社だけの話ではありません。楽天グループの三木谷浩史会長が、毎週月曜日の朝、自らオフィスの椅子を拭くという習慣を20年以上続けていることが話題になったことがあります。名だたる大企業を率いる経営者が、何年も欠かさず続けているのです。会社を実際に経営してきた人ほど、こうした「環境を整える仕事」が、実はExpenseであることを肌で知っているのだと思います。

会社に存在する業務のほとんどは、価値を生むExpense

私たちが提供しているのは、企業に届く荷物や郵便物の受け取り・受け渡し、そして発送業務を効率化するサービスです。この領域は、外から見れば典型的な「コスト削減の対象」に見えます。届いた荷物を受け取り、担当者に渡す。発送する荷物を梱包し、送り出す。単純作業であり、いかに人手をかけずに、安く回すかという話にしかならなさそうに思えます。

しかし、この業務を分解してみると、少なくとも三つのExpenseが見えてきます。

  • 紛失防止というExpense:荷物や郵便物を誰が受け取り、誰に渡したかが曖昧なままだと、紛失や誤配送が起き、その調査や再発防止対応に想像以上の時間とコストがかかります。受け渡しを正確に記録し管理することは、この紛失という大きなLossを未然に防ぐためのExpenseです。

  • ガバナンスというExpense:企業に届く郵便物や荷物の中には、契約書、請求書、個人情報を含む書類など、重要な情報資産が数多く含まれています。これらが誰の手も介さず放置されたり、記録もなく処理されたりすることは、情報漏洩リスクという経営課題そのものです。受領から受け渡しまでを記録し、追跡できる状態にしておくことは、単なる事務作業ではなく、情報漏洩という重大なLossを防ぐための投資です。

  • 社員の時間と職場環境というExpense:発送業務や受け渡し確認の手続きが煩雑であるほど、社員の時間は奪われ、荷物が積み上がった受付や執務スペースは乱雑になっていきます。この手続きを簡易にすることは、社員がより価値の高い業務に時間を使えるようにし、働く環境そのものを整えることにつながります。

こうして三つのExpenseを踏まえると、私たちが提供しているサービスの姿が見えてきます。届いた荷物の写真を撮るだけで受け取りリストを瞬時に作成し、受け取るべき担当者へ自動で連絡し、受け渡しの記録を電子データとして残して誰でも検索できるようにする。単に「郵便物を記録して管理する」という作業だけを切り取れば、これもまたLossにしか見えないかもしれません。しかし、その作業が必要とされてきた背景には、今挙げたようなExpenseとしての価値があります。

このうち、ガバナンスの点については、実際にお客様からいただくお声を通じて、もう少し具体的に補足しておきたいと思います。トドケールにご相談いただくお客様の中には、「削減できる仕事のコストと利用料のバランスが合わない」というお声をいただくことがあります。

しかし、この比較には、大切な観点が抜けているように思います。紙の台帳に記録されたデータには、検索性がありません。何月何日に、誰が、何を受け取ったのか。過去に遡って一件を探し出すだけでも、台帳をめくり続ける作業が発生します。情報漏洩や紛失が疑われる事態が起きたとき、必要な記録をすぐに取り出せないのだとしたら、その台帳は本当にガバナンス上、使えるものになっているでしょうか。目に見える人件費というコストだけを比較するのではなく、「いざというときに機能するかどうか」まで含めて、もう一度問い直す必要があると思っています。これはまさに、コストを気にしすぎるあまり、本来その業務が目的としている価値をないがしろにしてしまっている事例だと思います。

もちろん、これがすべての会社に当てはまるわけではありません。届く郵便物や荷物の量がそれほど多くなく、過去の記録を探す機会もほとんどなく、万が一何かをなくしてしまっても大して問題にならない、というのであれば、その記録を取るという業務自体が、その会社にとってはLossなのかもしれません。その場合は、丁寧にリスクアセスメントをした上で、記録を取る業務そのものをやめるという選択をするべきだと思います。紙で十分な会社やそもそも記録が必要ない会社に、電子化や記録の仕組みを無理に勧めるつもりはありません。

こうした業務は、本来Lossではなく、価値を生むExpenseなのだと思います。もし自部門の業務を眺めたときに、その価値がまったく見えず、コスト削減のことしか語れないのだとしたら、それはもしかすると、その会社ではその業務が本来発揮すべき価値を発揮できておらず、本当にLossになってしまっている、ということなのかもしれません。だとすれば、先ほどのドラッカーの指摘の通り、その業務自体をやめるという選択肢も出てくるはずです。ご自身の部門が担っている業務が、Lossなのか、それとも価値を生むExpenseなのか、一度立ち止まって見直してみる価値はありそうです。

おわりに

大きな組織に勤めていると、自分たちの仕事が生み出している価値が見えにくくなり、本来Expenseであるはずの仕事を、Lossとしてしか捉えられなくなる視野狭窄に陥ることがあります。私自身、経理という仕事を軽んじていた頃は、まさにそうでした。

もう一度、ご自身の業務を見直してみると、数字を早くつかむこと、職場の環境を整えること、荷物や郵便物を正確に受け渡し、記録すること――そのどれもが、ただのLossではなく、会社を支えるExpenseとして働いていることに気づくはずです。

総務・バックオフィスという仕事を、コストセンターとしてではなく、会社のガバナンスを支え、リスクを未然に防ぎ、社員が働きやすい環境をつくる「価値を生む機能」として捉え直すこと。それが、これからの総務部門にとって重要な視点になると考えています。

バックオフィスに携わる方々には、自分たちの価値を低く見積もりすぎないでほしいと思っています。もし本当にただのコストセンターでしかないのだとしたら、その部署はとうに存在していないはずです。今もその部署があるということ自体が、価値を発揮し続けてきた証だと思います。

もし今、皆様の部門で「コストをどう削るか」しか話題に上らない業務があるとしたら、それはLossとExpenseを、もう一度仕分けし直すタイミングなのかもしれません。さらに言えば、一つの業務だけでなく、部門全体の話がコスト削減のことしか出てこないのだとしたら、それはもう業務レベルの話ではなく、その部署自体が本当に必要なのか、というもっとドラスティックな問いに置き換わってしまうのかもしれません。私たちのサービスも、そうした仕分けの一つの選択肢としてお役に立てればと思っています。

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