更新日:
2025/7/3

近年では、システム障害や情報漏洩などのインシデントは「いつか必ず起きるもの」として備えることが重要とされています。対応が遅れると企業にとって大きな損失につながる恐れがあるため、管理体制の整備は不可欠です。本記事では、インシデントの基本知識から、計画の立て方、発生時の対応方法までを網羅的に解説します。

インシデント対応とは何か、なぜ重要なのかを正しく理解することは、万が一に備えるための第一歩です。ここでは、インシデント対応の概要や具体例、対応の重要性、そして対応チームの役割についてわかりやすく解説します。
そもそもインシデントとは、予期せぬトラブルや異常のことを指します。情報セキュリティやITの分野では、サイバー攻撃やシステム障害、データの消失などがインシデントとして扱われ、対応を誤ると大きな影響を及ぼす可能性があります。
「インシデント対応」とは、こうした事象に対して迅速かつ適切に対応し、被害を最小限に抑えるための取り組みのことです。異常の検知、原因の特定、封じ込め、復旧までを段階的に進めることで、安定した運用を支えることができます。
従来は「インシデントが起きないように予防すること」が重視されていました。しかし、近年はサイバー攻撃の精度が増していることから「インシデントは必ず起きるもの」として、発生後にどう動くかを事前に計画しておくことが求められています。いざというときに備えて対応手順や体制をあらかじめ整えておけば、被害を最小限に抑えることができます。
インシデントにはさまざまな種類があり、原因や影響の範囲も多岐にわたります。ここでは、企業でよく見られる代表的なインシデントの例を紹介します。
マルウェアの感染
ウイルスやトロイの木馬、ランサムウェア、スパイウェアなどが含まれます。これらの悪質なプログラムに感染すると、情報の流出やファイルの改ざん、端末の操作不能といった被害が発生します。解除の条件として金銭を要求するケースもあります。
フィッシング詐欺
本物そっくりのメールやWebサイトを使って、利用者にIDやパスワードを入力するよう誘導し、個人情報をだまし取る手口です。
DDoS攻撃(サービス妨害)
特定のWebサイトやサーバーに大量のアクセスを一斉に仕掛け、システムをダウンさせる攻撃です。サイトが利用できなくなり、業務やサービス提供に深刻な支障をきたします。
不正アクセス
ID・パスワードの流出やシステムの脆弱性を悪用して、第三者が無断で企業や個人のネットワークに侵入する行為です。
人的ミス・操作ミス
誤操作や設定ミスなど、ヒューマンエラーによるトラブルもインシデントに含まれます。たとえば、メールの誤送信やセキュリティ設定のミスにより、機密情報が漏えいしたり、攻撃者が悪用できる脆弱性が生じることがあります。
機器の紛失・盗難
ノートパソコンやUSBメモリなど、情報を扱うデバイスの紛失・盗難することを指します。重要なデータが第三者に渡る恐れがあり、情報漏洩被害に発展する可能性があります。
内部関係者による不正行為
従業員や業務委託者による意図的な情報持ち出しなど、組織内部から発生するインシデントもあります。
あらゆるサービスがITシステムに依存している現代において、インシデント対応は企業活動を継続するうえで欠かせない要素となりました。システム障害や情報漏洩といったインシデントが発生した際に適切な対応ができなければ、企業の信用失墜といった深刻な影響を招く恐れがあります。その対策として、インシデント対応の体制を整えておくことが重要なのです。
たとえばサービスの停止を伴う重大なシステム障害が発生した場合、復旧が遅れるほど損失額は拡大し、場合によっては企業の存続を揺るがす事態にもなりかねません。医療や公共インフラなどの分野では、インシデントによるシステム停止が人命に関わる事態を引き起こすことさえあります。
インシデントは完全に防ぐことが難しいため、重要なのは起きたときにどれだけ速やかに対処できるかです。適切な対応体制があれば、被害を最小限に抑えられるだけでなく、同じようなトラブルの再発を防ぐ手がかりにもなります。つまり、インシデント対応は単なる「緊急時の処理」ではなく、企業が安定して事業を続けていくために不可欠な取り組みでもあるのです。
インシデントに備えるためには、役割の異なる専門チームの存在が欠かせません。ここでは、現場で対応を担うIRT、組織全体の司令塔となるCSIRT、製品セキュリティに特化したPSIRTの特徴と違いをわかりやすく解説します。
IRTは、インシデント発生時に現場で直接対応を行うチームです。被害を最小限に抑え、早期の復旧を目指して対応の中心的な役割を果たします。
正式名称:Incident Response Team(インシデント・レスポンス・チーム)
対象:発生したセキュリティインシデント全般(システム障害・攻撃・情報漏洩など)
構成メンバー:IT、セキュリティ、法務、広報、経営など部門横断的
主な役割
インシデントの検知、封じ込め、証拠の保全
復旧作業や原因調査
利害関係者(顧客・法務・広報など)との連携・報告
CSIRTは、企業や組織全体のセキュリティ体制を構築・管理するチームです。インシデントの予防から発生時の指揮まで、全体を見渡しながら安全な環境づくりを支えます。
正式名称:Computer Security Incident Response Team(コンピューター・セキュリティ・インシデント・レスポンス・チーム)
対象:社内のITシステム・ネットワーク・データ全体
主な役割
インシデントの予防、対応体制の整備
セキュリティポリシーの策定や教育活動
発生時の対応方針の決定や各チームへの指示
PSIRTは、自社の製品やサービスに関わるセキュリティ上の問題に特化して対応するチームです。脆弱性の発見から修正、ユーザーへの情報提供までを通じて、製品の信頼性と安全性を守ります。
正式名称:Product Security Incident Response Team(プロダクト・セキュリティ・インシデント・レスポンス・チーム)
対象:自社製品・サービスに関するセキュリティ問題
主な役割
脆弱性の調査・修正・パッチ配布
ユーザー・業界への説明や情報共有
製品の信頼性とブランドを守る

インシデント発生時に迅速かつ適切に対応するためには、事前の計画づくりが欠かせません。ここでは、インシデント対応計画の基本的な考え方と策定手順をわかりやすく解説します。
インシデント対応計画とは、企業や組織がインシデントに対応するための計画のことです。この計画には、インシデント発生時の対応手順や役割分担、コミュニケーションの確保などが含まれます。インシデント対応計画は、インシデントが発生した場合に、迅速に正確な対応ができるようにすることが目的です。
インシデント対応計画を策定するためには、以下の手順が必要です。
リスクアセスメントの実施:インシデント対応計画の策定には、インシデントが発生した場合にどのようなリスクがあるかを評価することが必要です。リスクアセスメントを実施することで、インシデント対応計画の範囲や内容を明確にすることができます。
目標の設定:インシデント対応計画の目標を設定することで、対応の優先順位や期限を明確にすることができます。目標には、インシデント発生時の迅速かつ適切な対応や、インシデントからの復旧、同様のインシデントの再発防止などが含まれます。
組織の役割分担の明確化:インシデント対応に関わる組織内の各部門やチームの役割を明確にすることが必要です。各組織やチームは、インシデント発生時にどのような役割を担うかを理解し、迅速に対応するための準備をする必要があります。
対応手順の策定:インシデント発生時に、どのような手順で対応を行うかを明確にすることが必要です。対応手順には、インシデント発生の通知方法や担当者の連絡先、現場調査の方法、情報収集の方法、情報共有の方法、対応プロセスの流れ、復旧作業の手順、報告書の作成方法などが含まれます。対応手順は、組織内のすべての関係者が共通の理解を持ち、スムーズかつ効果的な対応を実現するための重要な要素です。
トレーニングプログラムの実施:インシデント対応計画には、インシデントが発生した場合に、組織内のすべての関係者が適切な行動をとることができるように、トレーニングプログラムを実施することが必要です。トレーニングプログラムは、インシデント対応計画の理解や実践的な対応方法の習得、リスク管理の考え方などを学ぶことができます。
インシデント対応計画は、常に変化するビジネス環境に合わせて改定することが必要です。インシデント対応計画の改定方法には、以下のような手順があります。
改定の必要性の評価:組織内部や外部環境の変化により、インシデント対応計画の改定が必要となる場合があります。この場合、改定が必要かどうかを評価し、必要性を確認することが必要です。
改定内容の決定:インシデント対応計画の改定内容を決定するためには、改定が必要となった原因や背景を分析し、改善すべき点を明確にすることが必要です。改定内容には、インシデント対応の手順や役割分担の変更、対応策の追加、トレーニングプログラムの改善などが含まれます。
改定の実施:改定内容をもとに、インシデント対応計画の改定を実施することが必要です。改定を実施する際には、変更点を周知することや、新しい対応手順の習得を支援するトレーニングプログラムの実施などが重要です。
実施結果の評価:インシデント対応計画の改定を実施した後は、その効果を評価することが必要です。実施結果の評価には、改定前後のインシデント対応の状況や、トレーニングプログラムの受講状況、組織内部での意識の変化などを評価することが含まれます。評価結果をもとに、改定が適切かどうかを判断し、必要に応じて再度改定を行うことが求められます。
インシデント対応計画の策定や改定は、組織内の危機管理体制を向上させるために重要な要素です。しかし、計画を策定しただけでは意味がありません。組織内のすべての関係者が、インシデント対応計画の重要性を理解し、計画に基づいた行動をとることが求められます。また、計画の効果を常に評価し、改善を継続的に行うことが、組織内の危機管理体制を強化するために不可欠です。
インシデントが発生した際は、落ち着いて段階的に対応することが重要です。ここでは、発見から復旧・再発防止までの基本的な流れと、それぞれの対応ポイントを解説します。
インシデントが発生したときに迅速に対応するためには、異常を早く察知することが大切です。主な検知方法には、社内の監視ツールによる自動検知と、ユーザーや取引先など外部からの連絡による発覚の2つがあります。システムやネットワークの状態を常に監視することで、異常な通信や動作を検知し、自動でアラートを送る仕組みを構築しておくことが欠かせません。
一方、社員や利用者が不審な動きやトラブルに気づいた場合にも、迷わず適切な担当者に伝えられるよう、あらかじめ報告のルールや連絡先を社内で共有しておくことも大切です。検知と報告の体制が整っていれば、初期対応のスピードと正確さが大きく向上します。
インシデントを検知したあとは、被害の拡大を防ぐために迅速な初動対応が求められます。まずは、関係者への連絡や情報共有を行い、対応体制を整えることが重要です。状況に応じて、ネットワークの遮断や該当システムの一時停止、対象となる機器の隔離といった処置を行い、被害の広がりを最小限に抑えるための暫定措置(封じ込め)を実施します。
初動対応の後は、インシデントの発生原因や被害の範囲を特定する調査を行います。ログの確認や関係者への聞き取りを通じて、5W1H(いつ、どこで、誰が、誰を、何を、なぜ、どうしたのか)の視点で状況を整理します。自社で対応が難しい場合は、外部の専門機関に助言を求めることも有効です。
インシデントの影響が社外に及ぶ場合は、関係者への迅速かつ適切な報告が欠かせません。あらかじめ定めておいたルールに従って、被害を受けた可能性のある顧客や取引先には速やかに状況を伝えます。被害の範囲が広い場合は、自社ウェブサイトへの掲載やプレスリリースによる公表も検討し、透明性をもって情報を共有することが信頼維持につながります。また、問い合わせ窓口の設置や、必要に応じて警察・監督官庁・IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)などへの報告も行います。
インシデントの原因を特定し、被害の拡大を防いだあとは、問題の根本的な解決(恒久対応)と、停止していたシステムやサービスの復旧作業を行います。CSIRTなどの専門チームが中心となって対応を進め、問題の根本原因を取り除いたことが確認できてから、システムやサービスの再開に移ります。一時的な対処だけでなく、再発を防ぐための修正や設定変更を確実に実施し、その効果が確認できてから本格的な復旧に進むことが重要です。安全性が担保された状態で通常運用に戻すことで、利用者への影響を最小限に抑えることができます。
インシデントの復旧が完了した後は、同じ問題を繰り返さないための事後対応を行います。調査結果をもとに、再発防止に向けたルールの見直しや技術的な対策の強化、従業員教育の改善などを検討・実施します。
あわせて、インシデント対応の内容をまとめた報告書を作成し、経営層への説明や社内での情報共有を行うことも重要です。被害者や関係者がいる場合は、必要に応じて補償や追加説明を行い、外部への情報開示が求められるケースでは慎重な対応が求められます。
こうした事後対応を通じて、組織全体のセキュリティ対策を見直し、継続的な改善につなげていくことがインシデント対応の最後のステップです。

インシデント対応計画は一度備えれば終わりではなく、対応力を日々見直し、強化していくことが大切です。ここでは、関係者の教育や記録の活用、計画の更新、ツールや外部支援の導入など、継続的な取り組みについて紹介します。
インシデント対応においては、トレーニングを実施することで、関係者の対応能力を向上させることができます。トレーニングには、以下のような方法があります。
シミュレーション:実際のインシデント発生時のシミュレーションを行うことで、関係者の対応能力を高めることができます。シミュレーションには、現場調査や関係者への連絡、緊急時に必要な手続きの実施など、実際のインシデントに近い状況を再現することが重要です。
ロールプレイ:ロールプレイを実施することで、関係者がインシデント発生時に必要な行動を理解し、対応能力を向上させることができます。
テスト:インシデント対応計画やシステムのテストを実施することで、関係者が対応に必要な手順やシステムの操作方法を確認し、対応能力を向上させることができます。
インシデント発生時には、対応能力を向上させるために、改善を継続的に実施することが求められます。改善方法には、以下のようなものがあります。
インシデント発生時の記録の分析:インシデント発生時には、発生原因や対応手順などの記録を取ることが必要です。これらの記録を分析し、改善策を検討することができます。
定期的な対応能力の評価:定期的に対応能力を評価することで、課題を把握し、改善を実施することができます。評価の方法には、テストやシミュレーションなどがあります。
インシデント対応計画の改善:インシデント対応計画を改善することで、対応能力を向上させることができます。改善のポイントとしては、インシデント発生時の対応手順の明確化や、関係者の役割や責任の明確化、コミュニケーションの改善などが挙げられます。
インシデント対応力を強化するには、人的対応だけに頼らず、ツールの導入によって仕組みとして備えることも重要です。ツールを活用することで、対応のスピードや正確性が向上し、対応の抜け漏れや属人化を防ぐことができます。
インシデント管理ツールは主に以下の2つのタイプに分けられます。
問い合わせ管理システム型:日常的な問い合わせやトラブルに対して、受付・対応・進捗確認などを効率的に行うための仕組みが整っている。
プロジェクト管理ツール型:タスクやスケジュール管理を得意とし、複数メンバーで連携しながら大規模・長期化するインシデントに対応するのに適している。
自社だけでの対応が難しい場合には、外部の専門機関や支援サービスの活用も重要な選択肢です。セキュリティベンダーや教育機関のサポートを受けることで、最新の脅威動向に基づいた知識や実践的なノウハウを取り入れることができます。
たとえば、インシデント対応の初動を外部SOC(セキュリティ監視センター)に任せたり、CSIRT構築のアドバイスを専門家から受けたりすることも可能です。 また、従業員へのセキュリティ教育を外部に委託することで、内部リソースを圧迫せずに対応力を高めることもできます。
過去のインシデント事例からは、インシデント対応における課題や改善点が明らかになります。そのため、インシデント事例から学び、対応能力の向上に役立てることができます。事例から学ぶこととしては、以下のようなものがあります。
課題や改善点の洗い出し:過去のインシデント事例から、発生原因や対応手順などの課題や改善点を洗い出すことができます。これらの課題や改善点を分析し、対策を検討することが必要です。
ベストプラクティスの取り入れ:過去のインシデント事例から、成功例や良い点を取り入れることができます。これらのベストプラクティスを参考に、インシデント対応の改善を実施することができます。
インシデント対応の訓練:過去のインシデント事例を用いたシミュレーションや訓練を行うことで、関係者の対応能力を向上させることができます。
内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が公開している『インシデント事例集』では、実際の事例とともに、原因・対応・教訓が整理されており、非常に参考になります。他社や他機関がどのような問題に直面し、どのように対応・再発防止に取り組んだのかを知ることで、自社のインシデント対応の強化に活用しましょう。

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昨今では、インシデント対応はビジネスにおいて避けて通れない課題のひとつとなりました。インシデント発生時に的確な対応をすることは、企業の信頼性や利益に関わる大切な問題です。本記事では、インシデントに関する基礎知識から対応体制の構築までを分かりやすく解説しました。インシデント対応チームの役割やトレーニング方法、事例から学ぶことなど、具体的なアクションについても触れました。本記事を参考に、インシデントに備えた対応体制の構築や対応能力の向上に取り組んで、より安心で確かなビジネスを実現しましょう。
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