更新日:
2025/7/4

別名「パワハラ防止法」とも呼ばれる労働施策総合推進法は、現在、中小企業を含むすべての企業にパワハラ防止措置の実施を義務付けています。本記事では、パワハラ防止法の基本や改正ポイントを整理し、企業が取り組むべき4つの防止措置と具体的な対策をわかりやすく解説します。
労働施策総合推進法とは、1966年に制定された雇用対策法の改正を経て、すべての労働者が生き生きと働けることを目指して成立した法律です。正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」となります。
この労働施策総合推進法は2019年5月の法改正により、大企業におけるパワーハラスメントの防止が義務付けられました。そのため、いまでは「パワハラ防止法」という名称でも呼ばれるようになりました。これまで中小企業に関しては猶予期間が設けられていましたが、2022年4月1日から対象となっています。。
法改正によってパワーハラスメントの防止が義務付けられたのは、職場におけるパワーハラスメントが大きな社会問題として浮上してきたためです。
2012年に厚生労働省が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがある従業員は25.3%だったものの、2016年にはその割合が32.5%に増加しました。
このような背景のもと、職場のパワーハラスメントの予防や解決を目的に、2019年に労働施策総合推進法が改正されました。
参照元:平成24年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査
参照元:平成28年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査

パワーハラスメントに該当するかどうかは、特定の3つの要件をすべて満たしているかで判断されます。ここでは、それぞれの要件について具体的に解説します。
1つ目の要素は、優越的な立場を利用した言動であることです。職務上の地位やスキルの差により、相手が拒否や抵抗をしづらい状況で行われる言動が該当します。たとえば、上司が部下に対して行う指導だけでなく、同僚や部下から集団で圧力をかけるような場合も含まれます。
2つ目の要素は、業務上必要とされる範囲を逸脱した言動であることです。たとえば、人格を否定する発言や、業務に直接関係のない叱責、過度に威圧的な態度などは、社会一般の常識に照らして適切とはいえません。業務指導の範囲内であっても、手段や態度が常識の範囲を超える場合は、パワーハラスメントとみなされる可能性があります。
3つ目の要素は、該当言動により労働者の就業環境が害されることです。心身に不調をきたしたり、働く意欲が著しく低下したりする場合などが該当します。安心して働ける環境が損なわれたかどうかが、判断の基準となります。

職場におけるパワーハラスメントは、以下の代表的な6つの類型に分類されます。
身体的な攻撃
精神的な攻撃
人間関係からの切り離し
過大な要求
過小な要求(退職を促すために能力以下の業務を行わせるなど)
個の侵害
ただし、これらに該当するように見える行為であっても、前章で解説した以下の3つの要素のいずれかを欠く場合には、パワハラに当たらないこともあります。
優越的な関係にもとづいて行われる言動
業務上に必要な範囲を超えた言動
労働者の就業環境が害されること
また、6つの類型に該当しない行為であっても、総合的に判断してパワハラと認められるケースがある点にも注意が必要です。
ここでは、3つの類型と、それぞれの「該当する例」「該当しない例」について解説します。
6類型 | 該当すると考えられる例 | 該当しないと考えられる例 |
身体的な攻撃 | ・殴打や足蹴りをする | ・誤ってぶつかってしまった場合(故意でないため) |
精神的な攻撃 | ・人格を否定するような言動を行う(相手の性的指向や性自認に対する侮辱的な言動を含む) | ・遅刻など社会的ルール違反が続き、再三注意しても改善されない場合に、一定程度強く注意する行為 |
人間関係からの切り離し | ・自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外したうえで、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修を命じたりする | ・新たに採用した労働者を育成するために、短期間集中的に別室で研修などを実施する |
過大な要求 | ・長期間にわたって、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業を命じる | ・労働者の育成を目的に、現状よりも少し高いレベルの業務を任せる |
過小な要求 | ・管理職である労働者を退職させるため、誰にでもできる単純な業務を行わせる | ・労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する |
個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること) | ・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物を無断で撮影する | ・労働者への配慮を目的として、家族の状況などについてヒアリングを行う |
参考:厚生労働省「職場におけるハラスメント対策パンフレット」

2019年の改正によってパワハラ防止法と呼ばれるようになった労働施策総合推進法。この改正により、2020年6月1日から大企業にパワーハラスメントの防止が義務付けられるとともに、2022年4月1日からは中小企業も義務化の対象となりました。
労働施策総合推進法における中小企業の定義は次の通りです。

上記に該当する中小企業は、労働施策総合推進法、特にパワハラ防止法としての内容の理解と基本的な枠組みの構築が求められます。また、この法令の対象となるのは正社員だけに限らず、非正規労働者や派遣社員も含まれます。
パワーハラスメント防止対策は、労働施策総合推進法の改正により、中小企業も含めたすべての企業に義務付けられました。ここでは、厚生労働省の資料「職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき措置」に基づき、企業が講じるべき4つのパワハラ防止対策について解説します。
企業は、パワハラを含むハラスメント防止に向けて、方針の明確化と周知・啓発を行う必要があります。主な取り組み内容は次の通りです。
ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確にし、管理監督者を含めたすべての従業員に周知・啓発します。就業規則や従業員心得、行動マニュアルなどに方針を明記し、あわせてハラスメントの内容や発生原因・背景についても伝えることが求められます。なお、ハラスメントには、パワハラだけでなく、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産、育児・介護休業に関連するハラスメントも含まれます。
周知・啓発の方法としては、社内報やパンフレット、社内ホームページの掲載、研修・講習の実施などが効果的です。とくに研修については、管理職層を中心に職階別に実施することや、職場の実態に即した内容とすることが重要とされています。
ハラスメント行為を行った者に対しては、厳正に対処する方針と具体的な処分内容を就業規則などの文書に明記し、すべての労働者に周知・啓発する必要があります。どのような言動がどのような処分に該当するかを明確に定め、労働者に対する意識付けを図ることで、ハラスメント抑止につなげることが求められます。
企業は、パワハラに関する相談に適切に対応できる体制を整備する必要があります。主な取り組み内容は次の通りです。
事前に相談窓口を定め、すべての労働者に周知します。窓口担当者を決め、電話・メールなど複数の方法で相談を受けられる体制を整えることが求められます。形式だけの窓口ではなく、実際に対応できる体制と、労働者が安心して相談できる環境づくりが重要です。必要に応じて外部機関への委託も認められています。
相談窓口の担当者は、相談内容や状況に応じて柔軟に対応できることが求められます。ハラスメントが実際に発生している場合だけでなく、発生の恐れがあるケースや微妙なケースも広く対象とし、相談者の心理状態や受け止め方にも配慮しながら対応します。相談対応後には、必要に応じて人事部門と連携を図ることができる仕組みづくりも必要です。また、担当者には対応スキル向上のための研修を行い、二次被害を防止する体制を整えることも求められています。
企業は、職場におけるハラスメント事案が発生した場合、迅速かつ適切な対応を講じる必要があります。主な取り組み内容は次の通りです。
ハラスメントに関する相談が寄せられた際には、まず相談者および行為者双方から事情を聴き取り、速やかに事実関係を把握する必要があります。相談者と行為者の主張に不一致がある場合には、必要に応じて第三者からも情報を聴取し、事実確認を進めます。
ハラスメントの事実が確認された場合は、被害者の保護と支援を速やかに行います。被害者と行為者の配置転換、謝罪、労働条件の回復、メンタルヘルス支援など、状況に応じた配慮措置を講じることが必要です。
行為者に対しては、就業規則等に基づき必要な懲戒処分等を講じます。また、行為者に対して、なぜ自らの言動がハラスメントに該当するのかを理解させ、再発防止に向けた指導も行うことが重要です。
ハラスメントの事実が確認された場合、または確認できなかった場合でも、改めてハラスメント防止方針の周知・啓発や、意識啓発のための研修・講習等を実施します。これにより、職場全体のハラスメント防止意識を高めることが求められます。
企業は、ハラスメント防止の取り組みとして、プライバシー保護と相談等を理由とする不利益な取扱いを禁止する必要があります。主な取り組み内容は次のとおりです。
ハラスメントに関する相談や対応の過程で知り得た相談者・行為者等の個人情報は、慎重に取り扱う必要があります。相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要なマニュアルをあらかじめ整備し、担当者に対する研修も実施します。また、プライバシー保護に必要な措置を行っている旨を、社内報やパンフレットなどで労働者に周知し、安心して相談できる環境を整備します。
労働者がハラスメントに関する相談を行ったり、事実確認等に協力したりしたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いを行ってはなりません。相談や協力を行った労働者が不利益な取扱いをされない旨を就業規則等に明記し、すべての労働者に周知・啓発することが必要です。
これまでに紹介した「企業が講じるべきパワハラ防止措置」を踏まえ、ここからは実際に社内で対策を進めるための具体的な手順を解説します。パワハラ防止に向けた対策は、「実態調査」「社内方針の明確化」「環境整備」の3つのステップで進めていくことが重要です。
パワーハラスメントに関する実態調査
社内方針の明確化
社内の環境整備
まずは組織内のパワーハラスメントに関する実態調査を行いましょう。
実態調査にはアンケートが手軽で効果的です。就業形態にかかわらず、すべての従業員にアンケート調査を実施することで、パワーハラスメントの有無を把握できるだけではなく、労働者一人ひとりの意見や意識をもとに、より適切な職場環境を構築できるようになります。
実際にアンケート調査を実施する際は、忌憚のない意見を提出できるよう、匿名形式にすることをおすすめします。
調査した社内の実態を受けて、パワーハラスメント防止に対する方針を明確にします。具体的には、被害者に対する支援方法や加害者に対する処分方法、再発防止策の策定などを検討しましょう。
まずは被害者に対する支援や補助の方法を検討します。たとえば、加害者による謝罪や、被害者と加害者の距離を置くための配置転換、メンタルヘルス不調に対する相談対応などの対策が考えられます。
続いて加害者に必要な処分を検討します。就業規則や服務規律に則り、けん責や戒告といった軽度な方法から、事態が重大な場合には減給や降格などの重度な対応が必要になるケースもあります。
被害者を支援し、加害者を処分したとしても、別の被害者や加害者が現れる可能性もあります。そのため、再発防止に向けた措置を講じる必要があります。職場におけるパワーハラスメントに関する方針を、社内報やホームページなどで改めて周知・啓発する方法が有効です。
ここまでの対策方法は、被害者と加害者の当事者同士で問題解決をはかるような内容でした。しかし、このような局所的な対処では問題が起きるたびに担当者の負担が増してしまうほか、会社が本気でパワーハラスメント防止に取り組んでいないと、従業員からの信用低下につながってしまう恐れもあります。
そこで、パワーハラスメントが起きないための環境整備を実施しましょう。たとえば、外部委託も含めた相談窓口の設置や、研修制度の実装などの方法が効果的です。

企業が労働施策総合推進法に違反したとしても、法的に罰則が与えられるようなことはありません。ただし、労働施策総合推進法の条文に次のような記載がある点には注意が必要です。
・第三十三条
厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる。
・第三十三条の二
厚生労働大臣は、第三十条の二第一項及び第二項(第三十条の五第二項及び第三十条の六第二項において準用する場合を含む。第三十五条及び第三十六条第一項において同じ。)の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
参照元:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律|e-GOV
万が一、違反行為が広く公表されてしまった場合、「あの会社はパワーハラスメントが横行している」と過度な悪い噂が独り歩きしたり、自社の評判に大きなキズが付いたりする可能性があります。違反をすると罰則こそないものの、リスクはあるという点をしっかりと念頭に置いておきましょう。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)は、改正により中小企業にも適用範囲が拡大され、現在ではすべての企業にパワハラ防止措置の実施が義務付けられています。本記事では、労働施策総合推進法の基本概要から、パワハラと認定される3つの要素、6つの典型類型、さらに企業に求められる4つの防止措置について解説しました。パラハラを防止するための取り組みを着実に進めることで、社内の信頼性向上はもちろん、対外的な企業価値向上にもつながります。本記事を参考に、今後のパワハラ防止対策をより強化していきましょう。
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